アキ・カウリスマキとジム・ジャームッシュ
アキ・カウリスマキの映画を何本か観た。これまで『罪と罰』『過去のない男』『10ミニッツ・オールダー 人生のメビウス』などから独特のセンスを持った人だとは思っていたのだが、今回観たのは『真夜中の虹』『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』『愛しのタチアナ』『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』。
アキ・カウリスマキはジム・ジャームッシュとも親交があるらしく、『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』では車のディーラー役をジャームッシュが演じている。たしかに両者の映画には通じるところがある。登場人物の寡黙さ(そして反動で飛び出す過剰なまでのおしゃべり)。人物の撮り方。もしかすると「アメリカ」に対する愛憎なかばしたスタンスまで。
ただ、ジャームッシュが洗練された映画技法の持ち主だとしたら、アキ・カウリスマキのそれははるかに野暮である。ヒロインはなぜかそろって不細工だし(失礼)、主人公はたいていぱっとしない(人生のどん底)。しかし、このうだつの上がらない感じに親しみが持てるという人にとっては、アキ・カウリスマキは実に素敵な映画監督なのだ。
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『真夜中の虹』は炭鉱の閉鎖により、仕事を求めて別の土地に向かう男が、不運につぐ不運にみまわれる。底辺に生きる人々を描いているという意味ではシリアスなテーマのはずなのに、随所にズッコケ的演出があり、最後まで飽きることがない。冒頭、オープンカーで極寒地帯をひた走る主人公の姿には、同情を通り越してもはや笑うしかない。素晴らしい作品(ほんとに)。
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『愛しのタチアナ』はロックンロールに憧れる田舎者の男二人が主人公で、ドライブ中にバスの事故で立ち往生していた女二人に出会う。女のうちひとりは外国語しか話せず、4人の間に流れるちぐはぐなコミュニケーションがとても可笑しい。車でカフェに突っ込んだ男が決めぜりふを吐く。「騒ぐな、俺たちはロッカーだ」(これが全然かっこよくない)。ラストまで観ればとても幸せな気分になれる。
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『レニングラード・カウボーイズ』はっきりいってB級映画で、ツンドラ地帯に住んでいたツッパリヘアーの一族(赤ん坊も飼い犬もツッパリ)のバンド一行が、一旗揚げるためにアメリカに行くのだが、認められずメキシコへ流れるというロード・ムービー。バンドをしきるウラジミールの理不尽なまでの独裁ぶりは見もの。ガソリンスタンドで突然親戚に会うシーンが最高に面白い。続編の『〜モーゼに会う』は、一時期はメキシコのトップテン入りを果たしたバンドのメンバーが、魔の酒テキーラによって次々と命を落とし、砂漠に身を隠している。そこに出演依頼が届き、行ってみると姿をくらましていたウラジミールがなぜかモーゼと名乗っていて、ふたたびバンドの独裁をはじめる。モーゼは「自由の女神の鼻」を故郷に持ち帰ろうと企んでいたのだった。それを嗅ぎつけたCIAの諜報員が追ってくるのだが、予想していたようなスリリングな捕り物劇にはならず、フランスやドイツやチェコやハンガリーを舞台にひたすらズッコケていくというほんとにどうでもいいストーリー。時間に追われている人は特に2作目は観ないほうが懸命だが、どうでもいい時間をどうでもいい映画で過ごすというある意味とっても贅沢な気分を味わいたい方にはぜひお勧めしたい。