ゲームの規則


いよいよ年の瀬も迫る。中条省平の『フランス映画史の誘惑』を読んで以来気になっていた「ゲームの規則」(監督・脚本/ジャン・ルノワール)をようやく観ることができた。中条さんの本で引用されていた名台詞「この世界には恐ろしいことがひとつある。それは、すべての人間の言いぶんが正しいということだ」は、ビデオ版の字幕翻訳では次のようになっている。

「僕は逃げ出したいよ。どこか穴の中に隠れていたい」
「何のために」
「何も見ないですむ。善悪を考える必要がない。誰もが自分を正しいと思っていることが怖ろしい」
「誰もが正しいのさ」


この映画がフランスで公開されたのは1939年。上の台詞は、戦時下という状況ともちろん無縁ではない。ところが、戦意高揚のカタルシスからは程遠いこの映画は評判が悪かったらしく、興行としては失敗。ヌーヴェルバーグによって1959年に再評価され、完全版として上映されるまで、ほとんど日の目を見なかった。日本での公開は1982年。それからさらに20年以上の歳月が流れ、2008年を迎えようとする今においても、この「恐ろしさ」はおそらく消えていない。


それにしても、ジャン・ルノワールの動きはかなりかわいい。上の台詞も、ルノワールが自ら演じる狂言回しオクターヴのものである。


フランス映画史の誘惑 (集英社新書) ゲームの規則 [DVD] FRT-265