日本文学盛衰史


なんとなく日記を書き始めた。誰にも見せない秘密の日記である。さまざまな断片的な着想をそれなりにまとめていくために、日記というスタイルは悪くないような気がする。毎日つける、という形式でははなくて思い立ったときに書き散らしていくような感じで。三日坊主にはなりたくないからね。そのうち、自然とこのブログとの使い分けもできてくるのかな。


ところで、高橋源一郎の『日本文学盛衰史』を読み始めた。啄木の「ローマ字日記」のパロディも面白いのだが(本物はもっと面白いのだが)、北村透谷と島崎藤村の会話も面白い。自殺を考えた藤村が透谷の家にたどり着き、「寝ろ、寝ろ。なんも考えずに寝てろよ、いいな」と囁かれた後のシーン。

 藤村はそれから数日、透谷の家で眠り続けた。何日たったのか藤村にはわからなかった。目が覚めた時、藤村は生き返ったような気がした。藤村の布団の横で、透谷は壁にもたれ目を瞑っていた。
「北村さん」藤村はいった。「北村さん」
 藤村は透谷が耳にヘッドフォンをつけていることに気づくと、壁際まで這っていった。
「北村さん!」
 透谷は目を開けるとニコッと笑った。そしてヘッドフォンをとるとそのまま藤村の耳に当てた。力強い、だが同時にやる瀬ないヴォーカルが藤村の耳を満たした。
ジャニス・ジョプリンさ。島崎、これがほんとの詩だぜ。ジャニス、ジミ・ヘンドリックスジム・モリスン鈴木いづみ、おれの好きなやつはどいつもこいつもどうして早死にするのかねえ。島崎、お前は早死にするな。負けるんじゃねえよ」
「はい」藤村はそれだけ答えるのが精一杯であった。藤村が立ち直るのと時期を同じくして、透谷の精神状態は悪化していった。


日本文学盛衰史 (講談社文庫)