多和田葉子と須賀敦子
多和田葉子『アメリカ 非道の大陸』を読み始めた。恥ずかしながら多和田さんの作品を読むのはこの本がはじめて。ドイツ在住の著者がアメリカを訪れる紀行文なのだが、いわゆる「私」が移動する形でのロードノヴェルではない。この本に散りばめられたエピソードはたしかに著者によって(ある程度)体験されたものなのだろうが、主語が「あなた」になることで、文章が虚構の世界を泳ぎはじめる。はたして、この大陸を移動している主体は誰なのか? そこでは主体が不確かではあるのだが、さりとて、迷いがあるというわけではなく、「あなた」はどうやらある種の強さをもった(しかもリズミカルな文体を繰り出す)女性であるらしい。その迷いのない不確かさが心地よい。
どうしても須賀敦子と比較してしまうのだが、須賀さんの場合は、ヨーロッパという大きな世界に投げ出された「私」という〈揺れる主体〉こそが魅力なのだと思う。だが多和田葉子の「あなた」は、どうやらちょっとちがうようである。
- 作者: 多和田葉子
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2006/11/01
- メディア: 単行本
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