転々


渋谷で三木聡監督の『転々』を観て、お約束通りに散歩したくなり、松涛、駒場、池の上、下北沢と歩いて家に帰った。途中、「とん水」でとんかつを食べ、一番街の果てにある八百屋で蜜柑を買ったら、それが甘くて、なかなかの美味だった。



『転々』はオトコ二人で東京を歩きまわる映画。吉祥寺の井の頭公園から出発し、最後は皇居の縁を通って霞ヶ関へ。といってもまっすぐ一本道ではなく、行きつ戻りつ、寄り道しまくり。そこに、いま私たちが生きているこの東京が映る。


そう、この映画が描くのは、いまの東京なのだ。「思い出」という言葉が何度か出てはくるけど、『転々』の人々が生きるのは、あくまでも〈現在〉であって、後半、小泉今日子吉高由里子*1が加わることで形づくられる擬似家族にしても、それが所詮はイミテーションでありママゴトの延長であるからこそ、実は誰にでも、今からでも作りあげることのできるものとして描かれる。そこでは、ありうべき「家族」も含め、すでにいろんなものが失われている。でも、たしかに生きるに値する〈現在〉はあるのだ。


偶然か必然か、主人公の青年をオダギリジョーが演じたことで、この映画は黒沢清の『アカルイミライ』のその後の世界のように思えなくもない。脇を固める御馴染みの役者陣も見事。東京に、ちょっといい感じのロードムービーが誕生した。

*1:ふふみ役として登場。いまイチオシの女優。特にこの映画でのはっちゃけぶりはすごい!