亡霊たちの会話
今日も彼女は電話に出ない。気がつくと、部屋にあったはずの歯ブラシ、それに化粧道具一式が消えていた。
次回の仲俣ブレインズに向けて、星野智幸を集中的に読む。
自分が何人にも分裂して収拾つかないことがときどきあるのに、それをほっぽってきたツケがいま回ってきた。
それでいいのよ。あなたは話したわ。だから夢じゃないわ。
糖子さんにはわかるの、俺の気持ち? 俺でも理解できない、俺の気持ち。
わかるわよ、同じ屍同士。話すときだけ、生きている自分に戻れるの。だからそれは現実のこと。
でも、昔のことを話すと嘘ついてる気分になる。自分じゃない人のこと話してる気分になる。
ほら、それが“なま”身の自分よ。話の中でだけ、生きていられる自分があるのよ。“なま”の自分なんて、いつだって他人行儀なもの。なじむためには、いますごしている干からびた夢から覚めて、遠い自分に寄り添うように話すことが大事。
俺、ずっと亡霊だったのかな。
星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』
- 作者: 星野智幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2004/10/28
- メディア: 文庫
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