亡霊たちの会話


今日も彼女は電話に出ない。気がつくと、部屋にあったはずの歯ブラシ、それに化粧道具一式が消えていた。


次回の仲俣ブレインズに向けて、星野智幸を集中的に読む。

 自分が何人にも分裂して収拾つかないことがときどきあるのに、それをほっぽってきたツケがいま回ってきた。
 それでいいのよ。あなたは話したわ。だから夢じゃないわ。
 糖子さんにはわかるの、俺の気持ち? 俺でも理解できない、俺の気持ち。
 わかるわよ、同じ屍同士。話すときだけ、生きている自分に戻れるの。だからそれは現実のこと。
 でも、昔のことを話すと嘘ついてる気分になる。自分じゃない人のこと話してる気分になる。
 ほら、それが“なま”身の自分よ。話の中でだけ、生きていられる自分があるのよ。“なま”の自分なんて、いつだって他人行儀なもの。なじむためには、いますごしている干からびた夢から覚めて、遠い自分に寄り添うように話すことが大事。
 俺、ずっと亡霊だったのかな。
    星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』

目覚めよと人魚は歌う (新潮文庫)

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