とりあえず働け


昨夜遅く、いったん帰宅してからゲラを某所に届け、下北沢へ。posseというNPO(というか学生団体)が企画したクラブイベントを覗きにいった。その主張するところによれば、正社員は過労死寸前、非正規雇用だと搾取されている、ということなのだが、一度も働いたことのないような学生にそんなこと言われてもどうかなと思った。というか、誤解のないように言い添えるなら、学生に経験がないのはいたしかたのないことである。しかし、それならばそれで、経験のなさを埋めるべく、たとえばさまざまな本を読むなどして知見を拡げないと通用しないのではないか。たしかに彼らも本は読んでいるのだろう。だがそれは、自分たちにとって都合のよい本ばかりではないか。すでにイデオロギーが先行していて、それに沿っていくら本を読んでも、薄っぺらい思想の奴隷になってゆくばかりである。


会場で立っているとposseのメンバーらしき若い学生が寄ってきた。「posseは初めてですか?」これではまるで新興宗教の勧誘だよと思う。きけば19歳の東大生らしい。みな、ダンスタイムでは音楽に合わせて踊っているのだが、どの人もこういう場所は不慣れなのだなと感じられた。それはいいのだが、みんな純朴そうだ。たぶん、いい人たちなのだろう。それはいい。でも私は、田舎から出てきたばかりの、文字通り右も左もわからないような子たちをたぶらかすやつらが大嫌いである。冗談抜きに、こういう若者たちの善意と良心によって支えられた組織が、まだ年端もいかない女の子たちを食い物にしたりするのには、激しい憤りを感じる。posseがそれと同じだと言い切ることはむろん現段階ではできないが、(組織の)構造的に言って、その方向に転がっていく可能性は十二分にあるなと思った。スポットライトを浴びて恍惚とした顔でぎこちなく踊る女の子たちを見ていると、痛々しくて目をそむけたくなる。


労働の問題は、いまの若者たちにとって実に都合のよい、しかも飛びつきやすいテーマなのだろう。それを必要としている人たちもたしかにいる。しかし、これから社会との接点を探っていこうとする若い人たちに、「すべての労働はクソだ」みたいなことを言っているドイツのクソアナーキー政党の映像(おそらく政権にはなんの影響力もない)を見せたりして、なんとなくその気にさせていくやり方はどうか? もっと、世の中にはたくさんの面白いことがある。未知のものがある。それなのに、この空間に満ちている言葉は、なんと貧しく、薄っぺらいのだろう。思わず、柳瀬博一を召喚しそうになる。「お前ら、働け! とりあえず働け!」