生きさせろ


徹夜して少し寝て起きて、仕事の仕上げにかかろうとしたら衝撃的なことがあり、もうダメだこれはアカン、すべて終わりだと思い込んで死のうと思った。けれど、ひっそりと離れて死ぬなら他人の中の記憶の薄れていく可能性にまだ少し賭けられるかもしれないが、自死を選ぶには私はあまりにも他人と深く関わりすぎていて、やっぱりそれはやってはいかんことだろう、ならば蒸発かとも思い、しかし蒸発するにしてもそのままいなくなるのはあまりに無責任だし、いま現在進行中のホットなプロジェクトの引き継ぎは誰にお願いするのがベストだろうとか、この部屋の家賃はいったい誰が払うのだろうとか、部屋のどっかにエロ本とかもしも残ってたら格好悪いなとか、ハードディスクの中の動画は大丈夫かとか、それに第一、この大したことのない貯金残高でいったいどこまで逃げ切れるものだろう? うまく国外に逃げおおせたとしてそこでサバイブするだけの能力が私にあるといえるのか、さらに就労ビザとかそういう手続きはどうなるんだろうとか考えていたらそれもこれもぜんぶ面倒になって、とりあえず布団の中に引きこもってはみたものの、非生産的な時間がただ流れるだけなのでとりあえずノラ氏に電話してみた。


「30分以内に行く」と宅配ピザ屋みたいな宣言をしたノラ氏は実際に25分ほどでやってきて、しかし私としては合わせる顔がないし何を話したらいいのかもわからないのでただ布団でじっとしていた。すると「おうおうこの家は客人にお茶も出さねえのか!」とノラ氏がすごい剣幕で恫喝するので、思わずびびって布団から出てお茶を入れていたらその隙に布団は押し入れの中に撤収されてしまい、とりあえず読めと渡されたのが雨宮処凛の『生きさせろ』である。


 

生きさせろ! 難民化する若者たち

生きさせろ! 難民化する若者たち




フリーターがどうのニートがどうのと喚き立てる人の中には、それは単なるあなたの経験不足でしょう、四の五の言わずとりあえず働いてみたらどうでしょうかと言いたくなる人もいるので、この本もそうした手合いとまでは言わないにしても潮流に乗って若者を煽るようなものかと思ったら全然ちがって驚いた。雨宮処凛さんはもともと右翼パンクだった頃の印象が強烈で今では左翼に転向、みたいなイメージもあるけど実はかなり着実に力をつけてきた人ではないかとこの本を読むと思い知らされる。文章がすごくうまいのだがそれは技巧的にということではなくて魂のこもっている感じがするのだ。それが暗い世界を描きながらどこか開かれた天窓のような印象を残す。手法としても、インタビュー、と称して自分の主張の中に相手を回収してしまうのではなく、ちゃんと相手の言葉を引き出していてそれは誰にでもできることではない。スタジオボイス小熊英二との対談で「あえて『ネオリベ』批判みたいなことを言っている」とか書いてあったけど、あんまり「ネオリベ」とか言わないでこうやって地べたから言葉を繰り出したほうがはるかに響く。


さてここでも「貧乏人大叛乱集団」「高円寺ニート組合」「素人の乱」の松本哉さんが紹介されているのだが相変わらず飛び抜けて面白い。この人が「なんとかなる」と言うとなんとかなるような気がする。天才なのだ。7月23日(月)、「北澤警察」主催のトークイベント@新宿ネイキッドロフトも超期待。http://kitakei.exblog.jp/7085610/